星のぶどうは家族の絆。
〜ギアファームのはじまりと想い〜
聞き手:田平志穂子
雲南市加茂町。銅鐸が出土したその地は夏には蛍も出る、空気が澄んで水がキレイな土地。そんな加茂町の中でも出雲神話・古事記にも登場する斐伊川近くの山あい三代地区でぶどう栽培をしていた祖父母を見て育った星野和志さんが小さなぶどう農園「ギアファーム」を2017年にスタートさせました。新規就農のギアファーム、実は星野さんの祖父母から受け継いだ農園です。
星野さんの祖父母のぶどう作りの起原は、昭和30年代半ばに遡ります。 島根県でのぶどう栽培は戦後、繭価の低落による桑園からの転換などにより、昭和30年代に入ると急速な増植が行われました。三代地区でも、ぶどうの特産化を町長が提案。農業で生計を立てる町民の多くが賛同しました。当時は野山が多く、開墾しなければ栽培できない状況でしたが、町をあげて特産化を目指すことになります。度重なる視察や調査を経て、山林約60ヘクタール、集落105名の新たな道が切り開かれ、集落全体が盛り上がる一大ムーブメントでした。当時を振り返りおばあちゃんが言いました。
「ぶどう作りをするぞ!と、説明会から帰ってきたおじいさんから聞かされました。」その時のおじいさんの意気揚々とした様子に、おばあちゃんも「生活の為に頑張るぞ!」と、すぐ決意したそうです。
それから、最初は50アール、後に人から譲り受けた10アールと畑を広げ、朝から晩までひたすら働きました。当時、集荷所には作られたぶどうの等級と出荷量が生産者ごとに貼り出されていました。上位に名前を連ねようと、どの生産者も切瑳琢磨していました。おばあちゃん夫婦も例外ではなく、毎日毎日畑に向き合い、立派なぶどうに育てるために試行錯誤を繰り返しました。「品質のよいぶどう」を目標にかかげ、視察をはじめ、ハウスや加温機の導入などの工夫、ある時はぶどう棚を守るために股上まである雪の中に入るなど、とにかく上質なぶどうを作るための努力は惜しみませんでした。
当時子どもだった星野さんのおかあさんも「とにかく忙しかった。海水浴に行った記憶がないくらい。」と当時を振り返ります。大人のみならず、子ども達も農作業を手伝っていたといいます。「農作業の休憩のお茶が家族の団らんでした。普段の学校の話やたわいない話をしたり、通りすがりの近所の方とも「ぶどうの調子はどう?」なんて、挨拶を交わしたりして。家族や集落みんなで支え合っていた記憶が今ではいい思い出です。」
台風、霜、雪など農業の宿命とも言える数々の天災も農園を襲いました。ビニールハウスなどなかった当時、長雨の影響でぶどうが腐り収穫目前で破棄しなくてはならない悔しい経験もありました。
そして、うれしいときも、苦しいときも、「品質のよいぶどう」を目指しひたむきに取り組んだ結果、昭和56年、農林水産大臣賞をはじめ、様々な品評会で賞を受賞しました。それは、家族全員で取り組んだぶどう作りが認められた、とてもうれしい瞬間でした。
「災害など良いことばかりではないけど、信念を持ってやればいいものを作れる。できると信じているから」おばあちゃんはいいます。
三代地区の人や星野さんの祖父母が長年作り続けてきたぶどう。長年積み上げてきた畑を2017年1月、孫・和志さんが受け継ぎギアファームとしてスタートを切りました。
和志さんは決意を込めて言います。「家族みんなで、そして地域一丸となって向き合ったぶどう作りで培われた絆は、言葉にできない強さがあると僕自身感じています。農業は生活と表裏一体。売ることだけが目的ではなく、環境を守り、整備をする役割を担っています。自分が生まれ育った場所がなくなるのは見たくない、住み続けるために自分ができることをやりたい。そう考え、僕は祖父母から受け継ぎ、ギアファームをつくりました。」
「品質のよいぶどう」をと祖父母の代からバトンを繋いだ「ぶどう」。次は孫の星野さんによって「星のぶどう」となり、地域や人との繋がりを紡いでいきます。
「星のぶどう」が、やさしい気持ちと一緒にみなさまに届きますように。
爽やかな甘さの果汁がたっぷりのぶどうをお届けするために、1年を通して大切に育てています。三代地域の自然の恵みを活かし、農薬の使用を最低限に抑える工夫で、安心して食べられる、おいしいぶどう作りを目指します。
収穫後も畑に通い剪定。
伸びる力を芽に蓄えます。これが大粒の秘密!
紅葉し落ちた葉は草と一緒に混ぜ堆肥として土に埋めます。根の張りやすいふかふかの土になります。
ハウス内の温度が下がり過ぎないようビニールを2重にしたり、加温機を稼働させたりと1年通して気は抜けません。春になると房に小さな花が!地面にビニールを張ってカビから花を守ります。
一気に粒が大きくなり始めます。実を大きくするために水は切らさないようたっぷりと。
植物ホルモン液に浸すのは早すぎても遅すぎてもダメ。おばあちゃんの長年のカンを頼りに、タイミングを見極めます。
一房一房袋がけをし虫や汚れから守ります。そして、この時期の寒暖の差がぶどうの甘さを閉じ込めおいしく仕上げます。
農園に立ち込める甘い香り。収穫を控えた実から放たれます。収穫で忙しくても、草取り、水やりは怠らず。
ギアファーム自慢のふかふかの土。畑に深さ40cm程度の溝を何本も作り、ぶどうの落ち葉と草を一緒に堆肥として土に埋めます。草は雲南市を流れる一級河川・斐伊川から取ってくるこだわり。土の重さによって5分の1程度まで圧縮されます。このやり方は祖父母の代から積み重ねられ、今では何十年分の養分や微生物の層でできています。
消毒された水道水ではなく蛍が生息する川からくみ上げた水。根がぐんぐんと吸い上げ、葉を大きくします。
光を目いっぱい浴び、出荷基準の糖度18度以上の実を作ることができます。
冷やしてそのまま食べるのが一番!だけど、こんな食べ方も絶品
そのまま凍らせてシャーベットみたいに
サラダ菜などリーフと一緒に混ぜてサラダに
生ハムを巻いておしゃれなおつまみに